▍本プロジェクトの主旨
- 余韻嫋嫋(よいんじょうじょう)
2018年9月16日、オーケストラの練習を指揮している最中に突然倒れ、66歳の人生を終えた松下功。余りにも突然の別れでした。
「飛天遊」、1998年長野オリンピック文化プログラム・オペラ「善光寺物語」など作曲家として活躍してきた松下功は、2019年3月の藝大退任を控え、2月と3月に大きなコンサートを予定していました。
2月14日に紀尾井ホールで企画していたコンサートでは、世界初演となる作品を考えていました。その新曲のタイトルが「余韻嫋嫋」でした。
新曲の初演は叶わなくなりましたが、松下功の音楽がこれからも世界中で演奏され、松下功の作曲家としての人生の響きが余韻として長く長く残って欲しい、との願いから、このコンサートを出来る限り当初の予定通り実施しようと、松下功と一緒に活動を行ってきた仲間たちが集まりました。
ぜひ本コンサートにご参加、ご支援下さい。
▍松下功について
松下 功プロフィル (作曲家・指揮者)
- 1951年生まれ。東京藝術大学、同大学院修了。ベルリン芸術大学に留学。以後、86年までベルリンに滞在し創作活動を行う。86年、第7回入野賞受賞。98年に長野冬季オリンピック文化プログラム・オペラ「信濃の国・善光寺物語」や開閉会式選手入場の音楽を作曲。
2000年和太鼓協奏曲「飛天遊」が、ベルリンフィル・サマーコンサートで演奏され好評を博す。1999年~2004年、また2014年~アジア作曲家連盟(ACL)会長を務める。日本で開催のACL音楽祭では実行委員長を務め、大会を成功に導く。
東京藝術大学副学長、東京藝術大学演奏藝術センター教授。作曲家。指揮者。日本作曲家協議会会長、東京オリンピック・パラリンピック競技大会 文化・教育委員会委員などを務める。2016年以降東京藝術大学で開催したSummer Arts Japanでは、音楽、科学、スポーツなどのコラボレーションにより、新たなアーツの世界を切り開く。
2016年公益財団法人仏教伝道協会 仏教伝道文化賞沼田奨励賞受賞。
2017年11月のベルリンフィル・シャルーンアンサンブルと森山開次による「舞・飛天遊」は、AIを使用した斬新な舞台が、米国のサイトで500万再生されるなど話題となり、2018年4月にはアブダビで開催されたCulture Summit に招待された。2018年9月16日逝去。
▍コンサートプログラムについて
- 元々松下にとって特に思い入れのある作品を、記念すべき公演のプログラムにおいていたものです。
ですが、ただ1曲、初演のために書きおろす予定の作品がありました。
“余韻嫋嫋”(よいんじょうじょう)が、その作品のタイトルです。
余韻が永く残る・・・・、まさに松下功の66年の人生の余韻を、残したい。
その思いで開催するコンサートです。
これを、本公演のタイトルとしました。 出演者について
遠藤千晶 Chiaki Endo (箏)
- 3歳で初舞台、13歳で宮城会箏曲コンクール児童部第一位入賞。
東京藝術大学大学院修了。
第8回長谷検校記念全国邦楽コンクールにおいて最優秀賞、文部科学大臣奨励賞受賞。「遠藤千晶箏リサイタルー挑みー」の演奏で第62回文化庁芸術祭新人賞受賞。第13回日本伝統文化振興財団賞受賞。NHK東北ふるさと賞受賞。第38回松尾芸能賞新人賞受賞。2009年以降、ソリストとして国内外のオーケストラと多数協演。2018年10月、その集大成のCD「遠藤千晶 箏協奏曲の軌跡」をビクターエンタテインメントより発売。
林 英哲 Eitetsu Hayashi(太鼓奏者)
- 1982年太鼓独奏者として活動を開始。84年初の太鼓ソリストとしてカーネギー・ホールにデビュー、国際的に高い評価を得た。2000年にドイツ・ワルトビューネで「飛天遊」(作曲:松下功)をベルリン・フィルと共演、2万人を超える聴衆を圧倒させた。常に新しい「太鼓音楽」の創造に取り組み活躍のフィールドを広げている。97年芸術選奨文部大臣賞、01年日本伝統文化振興賞、17年松尾芸能賞大賞を受賞。東京藝術大学客員教授。
オフィシャルホームページhttp://www.eitetsu.net/
ショルト・ナジ Zsolt Nagy (指揮者)
- ハンガリーのベーケーシュチャバで指揮者としての活躍を始める。23歳からブダペスト音楽院においてイシュトヴァーン・パルカイの指導を受ける。
1999年からはイスラエルコンテンポラリープレイヤーズの首席指揮者及び音楽監督を、2002年から2014年まで、パリ音楽院で指揮科教授を務める。
BBC交響楽団、アントワープ ベートーヴェンアカデミー、ベルゲン交響楽団、藝大フィルハーモニアなど、主要なオーケストラ、合唱団を数多く指揮してきた。
彼自身の活動の他に、指揮の指導にも力を注いできている。
イスラエルの現代音楽振興に対し特別賞を、そしてチリ交響楽団の2007年シーズンで最高指揮者に選出されたことで“Victor Tevah Award”を受賞。 アンサンブル東風 Ensemble Kochi
- 1999年に若手作曲家と演奏家を中心的なメンバーとして結成。既成作品・新作を問わず、作曲家・演奏家双方の積極的な意見交換によってプログラムを決めることを前提とし、双方の強力な信頼関係からなる活発かつ大胆な活動を目的としている。
メンバー個々の活動も含め、アジアでの活動実績が非常に多く、韓国、台湾、タイ、ミャンマーなどでの音楽祭に招聘されたり、オランダの「ガウデアムス国際現代音楽祭」に出演。古典から現代まで幅広いレパートリーを持ち、常に聴衆と一体となった音楽作りを目指しつつ、特に日本を含めたアジアの作曲家たちによる作品を積極的に世に紹介するアンサンブルとして注目を浴びている。
演奏曲目
- 海へ、そして夢に 2015 室内合奏のための
2015年東北の復興を願う「風景と心の復興」オープニングのために依頼・作曲された作品で「海」をイメージしたもの。たゆたう響きに乗せて東北の民謡も聴こえてくる。あの震災を受けて、松下が心からの復興への願いを音にしたもの。本公演では、日本舞踊の花柳美輝風氏が舞で参加する。
天空の光 2008 室内オーケストラのための
「陀羅尼」にはじまり「祈りの時へ」で終わる「祈り三部作」の2曲目に位置する作品。松下が作曲した「飛天三部作」に続く三部作である。天空からのいくつもの光に導かれ、それがやがて一つの祈りになる。
舞あそぶ音に2016 箏とオーケストラのための
2016年箏奏者の遠藤千晶氏からの委嘱で作曲され、2018年の東風の定期演奏会でも演奏された。現代作曲家の松下は、邦楽器、アジアの楽器にも造詣が深く、伝統楽器との協奏曲も数多く書かれているが、その代表作のひとつと言ってもよい1曲である。本公演では、遠藤千晶氏がソロを演奏する。
このこと 2009 邦楽合奏のための
邦楽器とオーケストラの為に書かれた作品であるが、今回は邦楽器のみのヴァージョンで演奏される。大伴旅人と藤原房前の「和琴」献呈時にやりとりされた詩を楽曲にしたもの。
飛天遊 1993/94 和太鼓協奏曲
93年にベルリンフィルメンバーにより八重奏として初演され、その後オーケストラヴァージョンとなり、ベルリンフィルを始め世界中のオーケストラで演奏され、いまや「古典」とも言える松下の代表作である。
初演から和太鼓を演奏する林英哲氏により室内オーケストラヴァージョンで演奏される。
▍コンサート概要 ~余韻嫋嫋~ 松下功追悼演奏会 アンサンブル東風 第20回定期演奏会
- ●日本舞踊/花柳美輝風 ●箏/遠藤千晶 ●和太鼓/林 英哲 ●指揮/ショルト・ナジ(友情出演)
●アンサンブル東風 Ensemble Kochi, Japan
Fl/姫本さやか Ob/中江暁子 Cl/大成雅志 Bn/依田晃宣 Hr/堂山敦史
Tp/平井志郎 Tb/加藤直明 Pc/稲野珠緒 Hp/堀米綾 Pf/及川夕美
Vn/花田和加子 古川仁菜 Va/中島久美 Vc/松本卓以 Cb/那須野直裕
作曲/松下功 小坂咲子 森田佳代子 朴 銀荷 音楽学/長野麻子
●邦楽合奏/深海合奏団
三絃/深海さとみ・深海あいみ 一箏/平田紀子・安嶋三保子 二箏/石田真奈美・石本かおり 十七絃/鳥越菜々子・林正典 - 日時:2019年2月14日(木)
会場:紀尾井ホール 〒102-0094 東京都千代田区紀尾井町6番5号 tel.03-5276-4500(代表) http://www.kioi-hall.or.jp/access
開演:19:00 (開場:18:15)
入場料: 5,000円(全席自由)
主催/アンサンブル東風、一般社団法人日本作曲家協議会
協賛/カメラータ・ナガノ、佐々木防災設備株式会社、薛博仁、縄田昌司、(株)六角
後援/東京藝術大学 音楽学部、アジア作曲家連盟(ACL)、一般社団法人日本音楽作家団体協議会(FCA)
協力/一般社団法人 アーツ・イノヴェーション・プロジェクト(AIP)
マネージメント・チケットお問合せ/一般社団法人日本作曲家協議会(JFC)
Tel. 03-6276-1177 concert@jfc.gr.jp
▍ご支援のリターン(お礼):パンフレットへのお名前掲載について
- 参考:チラシイメージ ※パンフレットデザインは作成中です。
- 本クラウドファンディングでご支援(チケット購入)頂いた皆様へのお礼として、公演プログラム(パンフレット)にご購入者様のお名前を掲載いたします。なお、チケットを譲渡された方は譲渡先の方のお名前を掲載させて頂きます。お名前のご掲載を希望されない場合は掲載なしのチケットをご購入頂くようご注意下さい。
▍公演に寄せて
- これまで松下と親交のあった方から応援のメッセージを頂きましたのでご紹介します。
- コシノジュンコ - 松下先生が長い年月をかけて作り上げた「アンサンブル東風」。 美しい余韻を持ったフィナーレを皆様に届けたいです。
- 夢枕 獏 - 余韻嫋嫋として あまねく宇宙に
- 五十代の後半か、六十歳になった頃、「もう、このくらいでいいか」と思ったことがある。
それはつまり、好きな曲であったり、趣味であったり、友人であったり色々だが、これまで好きになったもの、知り合った友人だけで、残りの一生、生きていけるんじゃないか、そんなことを考えたのである。
書く仕事は、好きで病気のようなものだから、一生やることは決まっているし、空いた時間は釣りやら落語やら、格闘技を観に行ったりで、充分埋めることができる。これまで好きになった曲だけで、新しい曲を好きにならなくても、充分に音楽を楽しむことができる。
残り時間があとどれくらいかはわからないが、若い時に感じていたように無限ではないし、六十代に残された時間は、けして多いわけではない。知り合いが増えると、その分、仕事の量が減るであろうし、釣りに行ける時間も減ってしまうのではないか。新しいことを、自ら拒否するつもりは毛頭ないが、残り時間をこれまで好きになったものだけでやっていけると思ったのだ。
そういう時に、松下功さんと出会ったのである。場所は、シェ・イノというフレンチレストランである。藝大の宮廻先生の紹介だった。
「オペラの作詞をしてくれませんか」と、会うなり松下さんは言った。テーマは「遣唐使」であるという。日本と中国で上演できるもの。おもしろそうだったので、「やります」と返事をして、一年くらいで書きあげたのではないか。
こっちは、オペラのことはまるでわからないので、歌舞伎の台本を始めて書いた時のように、かたちから入った。どのくらいの長さ(枚数)がいいのか。一行目はひとマスあけるのかどうか。台詞と歌詞の部分は、どう書きわけるのか。何幕にしたらよいのか。オペラとは、どういう形式、段落によって書かれるものなのか。アリアとは何か。
そういう基本的なところを、みんな松下さんが教えてくれたのである。
この時の台本『長安悲恋』は、中国語訳もでき、作曲もすんで、西安と北京で上演されることもみんな決まったにもかかわらず、尖閣諸島の問題が起こって中止になってしまった。しかし、これにこりたわけではなく、松下さんとは、一緒に実に多くの仕事(作詞、作曲という関係以上のこと)をやってきた。
居酒屋で、ふたりで一杯やりながら、
「オペラは、ハッピーエンドじゃなくていいんです。悲劇がいいんです」
という話もした。
「え、この人、ここで死んじゃっていいんですか」
「死んでいただいてかまいません」
横の席で、この会話を耳にした方は、このふたり、何だろうと思ったに違いない。
松下さんは、人たらしで、ほめ上手で、ぼくが書いたものを何でもほめてくれた。
この年齢で、自分の書いたものをほめられるということなど、そんなにあることではないので、それがまたぼくには嬉しくて、楽しかった。
「いつも松下さん、無茶ぶりするからなあ」
仕事で会う時、ぼくはいつもそう言っていた。突然台本だの、作詞の話が舞い込んでくるのである。しかし、ぼくは自分のことを書く職人であると思っているので、無茶ぶりされればされるほど、やってやろうじゃないのと、職人魂が燃えたりしていたのである。
それで、もう一本、オペラの話が舞い込んできた。“蝶々夫人のその後の物語”というのがテーマで、これは、コシノジュンコさんのご主人である鈴木弘之さんの原作であった。これは、ぼくの作詞は全部すんで、あとは松下さんが残り半分を作曲すれば完成というところまでいっていたのである。
コシノさんとオペラの打ち合わせをし、その後、松下さんとワインで一杯。
お互いにいそがしくて、メタボ系の病気も似たようなものを抱えていて、それでも、
「お互い、あと十年は一緒に遊べるでしょう」
「おもしろいことだけやって、生きていきたいねえ」
などと話していた二日後、松下さんの訃報を耳にしたのである。
六十歳の時、もうこれでいいかなあ、と思っていた、あれって、いったい何だったんだろう。
松下さんと知りあって、これまでと違うおもしろいことを色々やって、同じような年代のおもしろい知り合い、友人が何人もできて。
あらら、おれの残り時間のすごし方戦略、どうなっちゃったのよ。とんでもないかんちがい。新しいことって、おもしろいことばっかじゃん、と、思っていた矢先の訃報であった。
きっと、松下さん、まだ、自分が亡くなったの、気づいてないんじゃないのかなあ。
思い出すと、いつも涙があふれてくるのである。
いったいどこに行っちゃったのよ。
おれは、あと十年、一緒に遊びたかったよ。
余韻嫋嫋として、あまねく宇宙に満ちて、草木、花、山、川、風、空、石、大地、あらゆるものの内部にほのかなる神のごとくに宿り、響き、響いて、響き止むことなし。